千葉県5
     
助丁海上の郡の海上の国造他田日奉直得大理(じょちょううなかみノこおりノうなかみノくにのみやつこをさたノひまつりノあたひとこたり)の歌
「暁の かはたれ時に 島影を 漕ぎにし船の たづき知らずも」
(4384番・防人の歌)
暁まえの 薄明の中を 島影を漕いでいた船
あの船の衆は いま どうしているのか
手がかりもない
いずこで 飢えているのか 
生きているとの 手がかりすらもない
☆     ☆        
葛飾の郡の私部石島(きさきべノいそしま)の歌
「行こ先に 波なとゑらひ しるへには 子をと妻をと 置きてとも来ぬ」
(4385番・防人の歌)
我らが乗る この船の先に
波よ うねらないでおくれ
オレは あとに 可愛い子供と 妻を置いてきているんだから
波よ うねらないでおくれ
          
注・葛飾は江戸川下流一帯。
☆     ☆          
千葉の郡の大田部足人(おおたべノたりひと)の歌
「千葉の野の このて柏の ほほまれど あやにかなしみ 置きてたが来ぬ」
(4387番・防人の歌)
習志野の 児手かしわの 若葉のごと
ほんに可愛い 娘をば
どこの誰が置いてきたのか
ほかでもない このオレが
このオレが 児手柏の若葉の娘を置いてきたのよ
ああ 児手柏の若葉の娘を
☆     ☆        
占部の虫麻呂の歌
「旅とへど 真旅になりぬ 家の妹(いも)が 着せし衣に 垢つきにかり」
(4388番・防人の歌)
ただの旅だと 連れ出されたけれど
長旅になってきた 
家に残した妻が 着せてくれた衣に 垢がついてきた
短い旅だと 騙されて連れてこられて
着替えも持たず 連れてこられて
ああ 妻よ
☆     ☆          
印波の郡の丈部直大麻呂(いにはノこおりノはせべノあたいおほまろ)の歌
「潮船の 舳越そ白波 にはしくも おふせたまほか 思はへなくに」
(4389番・防人の歌)
防人船の 舳先に白波が のしかかるように
出し抜けの強引な 召し出しかたよ
思ってもいなかったのに
白波がのしかかるような お召しよ
           
注・印波の郡は、今の佐倉市のあたり。
☆     ☆         
埴生の郡の大伴部与佐(まよさ)の歌
「天地の いづれの神を 祈らばか うつくし母に また言とはむ」
(4392番・防人の歌)
天の神 地の祇 いづれの神を祈れば
いづれの神を祈れば
愛しい母君と 再び言葉を交わせるのか
再び出会えるのか
         
注・埴生の郡は、今の成田市のあたり。
☆     ☆          
相馬の郡の大伴部子羊の歌
「大君の みこと畏み 弓のみた さ寝かわたらむ 長けこの夜を」
(4394番・防人の歌)
大君の みこころのままに 出で立ちて
弓と共に この先もながく寝ることになるのか
このひもじく 淋しい長い夜を
このさきの幾夜を
              
注・相馬の郡は、今の茨城県相馬から千葉県葛飾にかけての一帯。